おやすみ、先輩。また明日
はっとして目を伏せて誤魔化す。
目が赤いのは、さっき山中さんとのことを思い出して悲しくなったせいだ。
泣きそうになっただけで泣いてない。
「宇佐美の前じゃ泣けて、俺の前だと泣けないか?」
「そういうんじゃなくて。そもそも本当に泣いてないし」
「杏」
腕を掴まれて、真剣な声で名前を呼ばれたら。
それだけでわたしは動けなくなる。
ヤンキー先輩はなぜか、苦しそうな顔をしていた。
「お前、俺に言うことがあるんじゃねぇか」
言うことって、なに?
麻美さんへの文句とか?
宇佐美先輩に好きって言われたこと?
それともわたしがあなたを、好きってこと……?
そんなこと、
「言うことなんて、ないよ」
そんなこと、どれも言えるわけない。
ヤンキー先輩のことが好きだから。