おやすみ、先輩。また明日
「そうそう。ニヤニヤしてるよねぇ」
「いつもぼ~っとしてるだけの杏がね!」
やっぱりわたしってぼ~っとしてるのか。
いや、それよりも。
ニヤニヤ? してた?
わたしは自分の頬を撫でながら、へらっと誤魔化すように笑った。
仲の良い友だちでも、彼女がいる人に恋をしたなんてなかなかすんなり言えないから。
「今日ね、部活でティラミス作るんだ~。だから楽しみでさ!」
「えー! ティラミス? いいな~」
「うちらの分はー?」
「たまにはご馳走してよ~」
「部活じゃそんなにたくさん作れないからなあ。今度家で何か作ったら持ってくるよ」
皆甘いものが好きだから、調理部に勧誘したことがあるんだけど、作るのは面倒とあっさり断られたんだよね。
女子というものはわがままだ。
自分で作ると2倍も3倍も美味しいのになあ。
これがわたしが、お弁当を1人黙々と食べている山中さんを嫌いになれない理由かもしれない。
作る楽しみを知っている人だから、どこか仲間という意識があるんだと思う。
お菓子を作る人に悪い人はいない!
きっとわたしはそう信じたいんだ。