おやすみ、先輩。また明日
「俺はさ、麻美ちゃんじゃなくて藤が心配なわけ。杏ちゃんの存在が、藤を困らせることになるんじゃないかってね」
「わたしはヤンキー先輩を困らせるつもりなんてないです。好きだけど、告白なんてしないし、彼女から奪おうとも思ってません」
「きみがどんなつもりでも、やってるのはそういうことだと思うけどねー」
手が止まった。
宇佐美先輩の言う通りかもしれない。
わたしがどんな気持ちでいようと、周りから見れば、ヤンキー先輩の彼女からしたら、略奪以外のなんでもないんだろう。
わたしは悪いことをしてるのかな。
誰も傷つけるつもりなんかないけど、わたしがヤンキー先輩を好きって気持ちは、それだけで罪なのかな。
やっぱり、好きになっちゃいけなかったんだ。
ただ見てるだけでいられないなら、好きになんてなっちゃダメだったんだ。
「……すぐ泣く女子ってほんと迷惑だよねぇ。俺嫌いだわー」
あきれたように言いながら、宇佐美先輩が開きっぱなしだった水道の蛇口をひねって水を止めた。
自分でもびっくりだ。
泣くなんて。
いつの間にかわたし、ヤンキー先輩のことをそこまで本気になっていたんだ。
泣くくらい好きになっていたんだ。
手の中の、濡れたシャツがひどく重く感じる。