強迫性狂愛
「こういう世界だからね、いるのよ。親同士が経営とかそういうもののために取り決めた相手が」

「………」

「百花」

「うん…?」

「黒澤様とお付き合いをするのなら、婚約者のことをどうするのかきちんと話し合った方がいいと思う」

「でも…紅、私…」


そんなことを私の口から、言えないよ…

付き合うなんて…そんなこと望んではいけないと思うし。

そもそも、迅が私を抱いたのたって…


どんどん考えがネガティブになっていく。

前向きになんて全然考えられない。


「百花が陰華の巫女だとわかれば余計に、きちんと婚約解消をしてもらわないと、駄目だと思うの」

「婚約解消って…」


そんな権限私にはないよ…


「黒澤様なら、きっとできるわ。大丈夫。お館様の耳にさえ入らないうちに、婚約を解消できればいいの」

「お館様って…?」

「黒澤様のお父様よ」

「………」

「お館様のお耳に入ると大変なことになるわ…」

「そうなの?」

「百花、私からも黒澤様に言っておくから」


そう真剣な面持ちで話す紅に、曖昧に頷くことしか今の私にはできないでいた。



「――…それからね、百花が陰華の巫女だって言われて腑に落ちたことが一つだけあるの」

「一つだけ?」

「一度、生理痛の時に百花と手を繋いだら、一瞬にして痛みがなくなったの。……なんでかなぁって思っていたけど、そういうことだったのね」

「そうみたいだね…」


紅と二人、紅茶のカップを見つめたまま――…静かな時間を過ごした。

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