強迫性狂愛
「翔くん、…ありがとう」
「なんだよ、改まって。おい、手なんか擦り合わせて…寒いのか?小笠原、もっと車内の温度あげて」
小笠原、と呼ばれた運転手の人が白い手袋をしたまま車内のスイッチをいじり始めた。
「いいよ、大丈夫だよ。寒いね、今日」
「あぁ、寒いな」
車に乗って30分、着いた先は、行ったこともないような高級感漂うレストランだった。
「一人なんだろ?一緒に飯食おうぜ」
「ん…」
なんとなくふらつく足で、車から降りようとすると
「ごめ……、翔く…」
さっきからムカムカしていた胃から何かがこみ上げてくるのがわかった。
「大丈夫か?」
慌てて私の傍に駆け寄って、背中をさすってくれる翔くんに思わず体を預けた。
「ん……、横になってると…楽、――はぁ…」
恥ずかしさも忘れて、自分の体からこみ上げてくる吐き気を抑えることに必死だった。
「――小笠原、悪い、俺んちに戻って」
「かしこまりました」
どこか、うつろな視界の中で聞こえてきた言葉に何も返すことができないまま…
車は、翔くんの家に向かって走り出していた。
その頃――…
予定よりも一日早く、迅が日本に戻ってきていることなんて知らずに――…