強迫性狂愛
休み前よりも僅かに伸びた前髪が、鬱陶しく目の前で揺れることにさえ苛立つ。


荒々しい音を立てて開けた玄関の扉の先に見えた黒髪の男に更なる苛立ちを込めて、ドアを激しく音を立てて閉じた。



「あ、迅……お、おかえり」



ふわりと笑う百花は、休み前よりも痩せてしまったようにみえた。


それでも、笑うとまるで花が咲いたかのような雰囲気に癒されている自分に、やっと息をつくことができた。



「よぉ、早かったんだな。そんなに百花に会いたかったのか?」



ニヤリと俺を挑発するように笑う目の前の男を無視して百花に視線をやった。



「じゃあ、帰るな。百花、何かあったらいつでも連絡して」


「うん、ありがとう…翔くん」


「それから、軽くでもいいから、何か食べてから寝ろよ?」


「うん、…頑張る」


「じゃあな、おやすみ」


「ん、…ありがとう、おやすみなさい」



いつのまに、名前を呼び合う仲になったのかと思わず心の中で舌打ちをした。


弱々しく手を振ってまで、十河を見送る百花の姿なんて見たくなくもない俺はその場を後にした。
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