強迫性狂愛

「さ、百花様、こちらの車にお乗り下さい」

「すごいね！紅って」

「は？」


瞳をキラキラさせながら、私を見つめてくる昨日出逢ったばかりの彼女に、一歩ばかり後ずさった。


「あの黒澤迅に、きちんと言えるなんて！」

「黒澤迅…って…」


フルネーム、呼び捨てですか…。


「だって、なんか、どっちでも呼びづらくって」

「そうですか」

「でも、紅は、紅ってしっくりきてるよ？今のところ」

「それは、よかったです。さ、お乗り下さい」

「はい」


車に乗って、２人並んで後部座席に座っていると

窓の外を見ながら、どこか嬉しそうに小さく歌を歌っている百花様。


肩までかかる艶の良い黒髪を靡かせながら、ふわりと可愛らしくえくぼを作って笑う百花様に…


私は、迅様がなぜ…この方を突然連れて来られたのか、傍に置くことにしたのかが一瞬のうちに見て取れたような気がした。