強迫性狂愛
百花が陰華の巫女だというのは、そういう意味で都合がよかった。


なんの理由もなく、柚香と結婚しても百花を傍に置けたから。


俺にとって見れば、百花が陰華の巫女であることなんて、たいした問題じゃなかった。


陰華の巫女の力があろうが、なかろうが、俺は百花を手放すつもりは毛頭なかった。


百花の存在そのものに――…、一番の癒しを感じていたから。


力なんてどうでもよかった。


柚香が、百花に何かしてくるだろうことはわかっていた。


わかっていて、野放しにしていた。


携帯の件がわかったときも、柚香を責めたりしなかった。


柚香と婚約しながら、百花を一番に思う罪悪感が俺にはあった。


そのくらいのことは、黙認しておこう…いや、ただ単に面倒くさかったのも知れない。


柚香に対して、怒ることも、何かを話すことも。


だから、放っておいて、新しい携帯を百花に渡すことで穏便に事を解決しようとしていた。


なのに―…



「柚香、帰れ」



百花を悲しませてしまった。
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