強迫性狂愛
「あいつが、すげぇ悩んでたの知ってたのかよ?」


「………」



知らない。



「お前に話すって、言ってたんだぞ?」



聞いてない。


その瞬間――…


昨日の百花の言葉を思い出した。



『あ…っ、あの日…私が…どんな思いで…っ』


『じ…っ、迅に…あの日…かけた電話も…っ』



俺は、握りしめていた十河のネクタイから、ゆるり、と手を離した。



「百花がしたことは、あいつが望んでいたことじゃない。それだけはお前に言っておくよ」



そう吐き捨てて、俺の横を十河が通り過ぎていってからも俺は、しばらく呆然と立ちすくんだまま、その場から一歩も動くことができなかった。
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