強迫性狂愛
「百花?」

「あ、紅…」

「いい加減にパーカー脱いだら?」


競泳用の水着をスラッと着こなして、格好よくゴーグルをしている紅に苦笑いを零した。


「ん、…先に行ってて?」

「もしかして、水泳が苦手なの?」

「ううん、そんなことないよ」


心配そうに私を見つめる紅から視線を外して、思い出していた。



――…あれは、まだ私が幼稚園の頃。


家族で初めて、海に遊びに来ていた。


浜辺でお父さんと一緒に遊んで、少しだけ波を足に感じながら遊んでいた時――…


ふ、と気がつくと周りを見渡しても、なぜかお父さんが側にいなくて


不安になってその場所から歩き出した時


突然、知らないお兄ちゃんに「この浮き輪君の?」と声をかけられた。


私の大好きなキャラクターの浮き輪だったから、本当は私のものじゃないのに、思わず頷いて浮き輪を手に取っていた。
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