饅頭(マントウ)~竜神の贄~
 四半刻ほども祈り続けただろうか。
 不意に、周りの空気が微妙に変わった。
 虎邪が顔を上げる。

 そのとき、遠くから一羽の鳥が飛んできた。
 老神官の使う、お使い鳥だ。
 老神官は、鳥の足に括られた小さな紙を解き、内容に目を通すと、虎邪を見た。

「仰るとおり、奴らが現れ、森へ入っていったようです」

 町中に川上の神殿で祭事を行うと触れを出せば、また誰かが必ず、あの男へと連絡するはずだ。
 どこから森へ入るかもわかっている。

 虎邪の指示で、長がその辺りで張っていたのだ。
 神明姫を家に戻すにあたり、長には夕べのうちに、老神官と事の顛末を話してある。
 町のため、娘のために、長も協力することになったのだった。

「馬鹿め。今回流れてくるのは供物ではなく、竜神そのものなのにな」

 にやりと笑い、虎邪は指で印を結ぶと、一際強く祈りを捧げた。
 その途端、いきなり川面が激しく波立つ。
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