饅頭(マントウ)~竜神の贄~
 密かに引いている虎邪など意に介さず、長は切々と訴える。
 虎邪は助けを求めるように、ちらりと緑柱を見た。
 それを受けて、緑柱が口を開く。

「なるほど。それは大変でしたね。とはいえ我々も、今日は長旅の疲れの上に道に迷って、大変でした。そろそろ主も休まなければ、祈祷とやらも、ままなりますまい」

 気を利かせたのだろうか。
 そのわりには、かなり強引な話の持って行き方だが、長はそうは思わなかったようだ。
 おお、と慌てて頭を下げる。

「これはこれは、気づきませんで申し訳ない。ささ、お部屋も用意させておきました故、どうぞ気兼ねなくお休みください」

「え~っと、いやでも・・・・・・」

 まだ神明姫と喋ってもいない。
 虎邪は未練たっぷりに渋ったが、それを遠慮と見、長は、さぁさぁ、と急き立てる。

「思えば中央からなど、相当な長旅。さぞやお疲れでしょう。いや全く、本当に気づきませんで・・・・・・。ささ、遠慮など無用です。どうぞ、下がってください」

 ぐいぐいと、半ば追い出される勢いで宴席を退出させられ、虎邪と緑柱は離れへと追いやられてしまった。
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