饅頭(マントウ)~竜神の贄~
 まるでこの町に着いたときのようだ。
 曲がりくねった回廊は、方向感覚を麻痺させる。
 足元にぽつぽつある灯りに頼りなく浮かび上がる道は、まるで同じところをぐるぐる回っているかのような錯覚に陥る効果があるようだ。

 一体どれほど歩いたのか、はたまた大して歩いていないのか。
 先の酒のせいだけではない。
 自分が今どういう状況にあるのか、二人ともわからなくなっていた。

「ちくしょーっ! 何で家の中でまで、こんな目に遭うんだぁ! あんのクソ爺、案内の女官ぐらい、つけろってんだ!」

 むきーーっと空(くう)を蹴る虎邪は、ふと密かに漂う甘い香りに気づいた。
 その、ほんの僅かな香りを頼りに、元を割り出し、虎邪は振り向き様、腰の剣を抜き放った。

「何者だっ!」

「きゃあぁっ」

 虎邪の誰何の声と、か細い悲鳴が重なる。
 抜き身の剣を、後ろの壁に突き立てた虎邪は、その剣のすぐ横で震える神明姫に、息を呑んだ。
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