饅頭(マントウ)~竜神の贄~
「いえいえ、確かに供物の何割かは頂いておりますが、全てという訳では。全て取ったら、それこそ神罰が下るでしょう?」

 生真面目に言う老神官に、虎邪は怪訝な顔を向けた。
 このように殊勝なことを言う神官など初めてだ。
 何を言っているのか、というように見る虎邪のほうを、老神官も怪訝そうに見る。

「・・・・・・本気で言っているのですか?」

「本気も何も。供物とは、そういうものでしょう?」

 しん、と沈黙が落ちる。
 どうやらこの老神官は、真面目に儀式を執り行い、真面目に供物を川に流していたらしい。
 ではその流れた供物は、どこに行ったのか。

 虎邪は神官のくせに、見たこともない神の存在など信じていない。
 神に捧げた供物など、流れて下流で朽ち果てるだけ。

 そう思うのに、ここの下流には、そのような残骸は一切なかった。
 ということは、神官が掠めている他ないではないか。
 神が食らったなど、あり得ない。

「虎邪は神官のくせに、神の存在を、本当に信じてないんだねぇ」

 虎邪の心を読んだように、横から緑柱が呟く。

「当ったり前だろ。供物を神が受け取るなんざ、あるわけない。目に見えない存在のカミサマが、そんな俗物欲しがるわけねーだろ」

 きっぱりと言い切る虎邪の理論は、なるほど、一理ある。
 が、老神官は驚いたようだ。
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