饅頭(マントウ)~竜神の贄~
「ではその八割もの供物の効果は、現れているのですか?」

 ぐ、と老神官が押し黙る。
 水害が起こるたびに、儀式を執り行ってきたが、一向に災害は減らない。

「・・・・・・それで、今回は中央都市からわざわざ神官様をお呼びしたのです」

「はぁ、なるほどね~」

 ぽりぽりと、虎邪は気のない素振りで頭を掻く。
 適当に物々しい儀式的なものをして、とっとと終えるつもりだったのに、どうも厄介な頼まれ事だったようだ。

「神官様もそれなりに力がありそうですが、何とぞご安心を! 強い霊力を扱う呪術を、見つけましてございます!」

 やる気なさそうな虎邪を、どう勘違いしたのか。
 己にかかる期待に、不安を抱いたと認識されたようだ。

 虎邪の見かけの若さ故か。
 人を馬鹿にした態度も、そのとき発揮される魅力で、人に不快は与えないようだ。
 良いことなのだろうか。

「呪術・・・・・・」

「はい! 実は我が町に、密かに伝わる秘術でして。何度か行われたこともある術なのですがね」

「ふ~ん。そんなものがあるなら、わざわざ都市から神官を呼ぶ必要も、なかったのでは?」

 いやいや、と老神官は慌てたように、ぶんぶんと手を振る。
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