饅頭(マントウ)~竜神の贄~
「姫君自ら給仕ですか。変わってますね」

 粥の入った器を手渡す神明姫に、虎邪が話しかけた。
 都市のような大貴族ではなくても、一応長の家だ。
 れっきとした姫君であろうし、侍女がこの者しかいないわけでもあるまい。
 都市では、ちょっとした財のある者の家には、侍女がいるものだ。

「都市からの使者様のお相手を、侍女だけにお任せしては失礼に当たりましょう。これはわたくし付きの侍女、露(ルウ)と申します」

 それだけ言うと、そそくさと神明姫は緑柱のほうへと移動した。
 昨日虎邪に迫られた照れもあるが、それよりも神明にとって気になるのは、緑柱のほうなのだ。

 というのも、実際虎邪らが来てからは、例の夢は見ていない。
 まだ二日しか経っていないといえばそうだが、毎日のように見ていた夢を見なくなったということは、その人物が実際に現れたからではないのか、という思いがあるのだ。

 顔も姿もよくわからない人物なのに、何故緑柱をその人物だと思うのかは、いまだにわからないが、神明姫はとにかく、緑柱が気になって仕方がない。

 緑柱が夢の人ではないかと、露にだけは伝えている。
 そうだとしたら、本当に凄いことだと、露も興奮気味に言っていた。

 で、彼らの身の回りの世話を、買って出たというわけだ。
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