饅頭(マントウ)~竜神の贄~
「はははぁ! 自分では敵わんか。その腰の剣は飾りかぁ?」

 びしっと虎邪の腰を指差して高笑いする男に、虎邪は肩を竦め、代わりに緑柱が口を開いた。

「虎邪に剣を抜かせていいのか? あんた、後悔するぜ」

 ぴた、と男の高笑いが止まる。
 微妙に凍り付いた空気も気にせず、当の虎邪は、にっこりと男に笑いかけた。

「一刀のもとに斬られると思わないほうが良いですよ。俺は、そんな楽な殺し方はしないので」

 満面の笑み。
 人を小馬鹿にするときのみ、口調も表情も柔らかくなる。

 蕩けるような表情に、男も姫も、ぼぅっとなってしまうが、男のほうは同性だからか、言われた内容に気づいたようだ。
 ぼぅっとした表情が、一転して固まる。

「俺を指名するのは、虎邪の優しさなのさ」

 にやり、と緑柱が珍しく笑みを浮かべる。
 と、いきなり虎邪の腕の中の神明姫が慌てた。

「あっあのっ! い、いきなり殺しは・・・・・・」

「ああ、そうですね。一応神官なので、無用な殺生は、出来るだけ避けたいところです」

 思い出したように言い、虎邪は、ちらりと緑柱を見た。
 緑柱は、また不満そうな顔をする。

「・・・・・・気絶させるのって、結構大変なんだぜ」
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