饅頭(マントウ)~竜神の贄~
 しばし思案し、再び虎邪は歩き出す。
 神明姫が驚いて、虎邪を見上げた。
 虎邪は森に向かっているのだ。

「あのっ。も、森に入られるのですか?」

「ええ。祭事のときは入るってことは、別に人が入れないというわけではないのでしょう? それなりの地位の人間しか入れないのだとしても、俺は神官だし、姫だって、長の娘だ。何の問題がありましょう」

 さらっと言う虎邪に肩を抱かれたまま、神明姫も森に足を踏み入れる。
 後ろから緑柱が、「だったら俺はどうなんだろう」と呟いたが、そういう彼も、何ら気にすることなくついてくる。

「うわ・・・・・・。確かにこんなところ、用事もないのに入ろうとは思わんな」

 虎邪が空を振り仰ぎながら言う。
 もっとも頭上は生い茂る木々で、日の光など全く射し込んでこない。
 ひんやりとしていて薄暗く、姫の言うとおり、不気味な森である。

 と、いきなり上空で、鳥が激しく羽ばたいた。

「きゃ・・・・・・」

「ぎゃあああぁぁぁぁっ!!」

 悲鳴を上げそうになった神明姫の声に被る勢いで響き渡ったのは、鳥の鳴き声か・・・・・・?
 叫び声のほうに驚いて振り向いた神明姫は、目の前の光景に固まった。
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