地下世界の謀略
名残惜しむ琉達を背に、私達は遺跡へと向かう。
徐々に小さくなるあの子達に本当に振り向いて戻りたいのはアルトだろう。一番寂しそうな顔をしているのは、一番強がらな彼なのだから。
「…傷つかずに帰ってくるなんて、嘘でも言えないだろ」
ぽつり、と呟く彼に理貴さんはそうだねと静かに目を閉じていた。
きっと無傷で戻ることなんてない、ここにいる三人とも分かっていることだ。
動きが活発になっている荊、蔓延る未来への不安。
アルマディナの地下に眠っているかもしれない、"安楽街"の秘密。
風が変わる。
協会よりも空気が重いパイプ管が連なる道に出た。
「こっから先は、きっと天国なんかありはしない」
くるっと向きを変えて、アルトは私の正面に佇んだ。私を見るその瞳は、何処までも真っ直ぐで。ーーー不安そうで。
「……正直、アンタは着いてこないと思ってた。荊を動かしている人間を探すのも、安楽街を目指すのも、全部俺の事情だから。」
「…そうだね」
「俺の事情で命を危険に晒すことに、月は抵抗しないのか?」
心が妙に落ち着いていた。これから危険な場所に踏み込むというのに、彼が側にいるだけで、不思議となんとかなるんだろうと、思う。
"月"。
「ばかだなあ」
優しく名前を呼ぶ貴方の力になりたいんだよ。
「私はここで生きるの」
彼女の綻ぶ顔に、彼は無意識に胸を鷲掴みにされたようだった。