地下世界の謀略
「幸せな世界だと言われていました」
国家が示す文書を頭に叩き込み、国家に従い信仰すれば死んでもなお、救われる。
今思えば、誰がそれを創ったのか。
一種の刷り込みのような、宗教のような、そんな危うさがあった。
上に生きているときには気付かなかったことが、この地下世界に生きていれば見えてくる。
「一種の信仰だな」
「そうかもね。だけど誰も不思議に思わなかったんだと思う。現に、皆成人して働いて、何不自由ない暮らしを与えられてきたのだから」
「不自由がない、ねぇ」
本当の不自由とは。
飼い慣らされていると感じたのは、いつだったか。
「わたしの中でその自由も、いつしか不自由に変わってた」
目を閉じれば脳裏に浮かぶ、明るい世界での生活。皆口を揃えて言うのだ、国に従おう。汚いものを見るのは、身を汚くするのと同じだ。だから、
(だからね、とほくそ笑んで大人は言うの)
「………」
「月?」
「…まって、あれ、わたし今」
大切なことを思い出しかけた。
ぼんやりとしか浮かんでこない言葉と、大人たち。私は、何を忘れている?暫く悩んでみても、肝心の台詞やら言葉は出てこない。
またこれだ、ところどころ記憶が飛んでしまっている。なぜ、誰が、私の頭をいじった?
「地下世界、」
「?」
「月ちゃん?」
「なにかを、禁じられていました。地上世界で、何かが、禁忌だった…」
(わたしはそれで、堕とされたのかもしれない)
地下から吹いてくる冷たい風が、やけに鋭く皮膚に刺さった気がした。