地下世界の謀略
人間の在処
「こんな暗いのに、よく道わかるね」
黙々と暗闇の先を進む青年の後ろで、月は辺りを興味深げに見回しながら行った。
まあ、どこを見てもパイプ菅と下水、暗闇そして少しの灯りしかないのだが。
寂れて、古びてしまった下水道のパイプ菅が時代の流れを物語っているように思えた。
そして私は、また違和感を感じる。
────まるでこの世界だけ、置いていかれてしまったような錯覚。
「慣れてる」
(この青年はそれを、どう思って生きているのだろうか)
「でもここって人が立ち入る場所じゃないんでしょ?」
「好き好んで入ってくるやつはいないだろうな」
「……へえ」
「………なんか、アンタ変わってるよな」
急に顔だけ此方に向けた青年は、随分不躾な質問をしてきた。月がはあ?と気の抜けた返事を返すと青年は口許をあげて挑発的に笑みを漏らす。
「地上にいたくせに、堕ちてきたことに悲観的にならないし」
「…別に悲観的になってないわけじゃない」
「じゃあなんで喚かないんだよ。」
「喚いたってこの状況は変わらないでしょう」
青年の言うことは尤もだ。
もっと嘆いたっていいだろうに、肝心の私の心はそれを必要としていない。
私はもしかしたら、あの世界にあまり執着していなかったのかもしれない。
そりゃあ堕ちたときは確かにショックだった。
しかも記憶が都合よく飛んでしまっているのだから。
それなのに、私はもう既にこの世界で生きていく術を探そうとしているのだから、不思議だ。