地下世界の謀略
小さな冷蔵庫から太めの瓶を取り出した青年は、「まあ、座れよ」と言った。
地上世界で習った英語が瓶に刻まれているのを横目に、月はソファーには座らず、冷たい床に腰を下ろす。せめてもの遠慮だった。
「酒、飲むか?」
「……私飲めないよ、未成年だから」
「馬鹿かお前、此処に法律なんてもの存在しないんだぞ」
可笑しそうに笑って口で外した瓶の蓋を床に吐き捨てた。…ここの床に瓶の蓋が転がっている理由が分かった気がする。
立ったまま直接口をつけて酒を煽る青年が扇情的に見えて、月は迷った末視線を反らした。
「あの、」
「?」
「今更だけど名前、教えてほしい」
私が一方的に簡単な紹介をしただけで連れてきて貰ってしまったため、肝心なことを聞いていなかった。率直に言えば、青年の名を聞くタイミングがなかったのだ。
少しの間お世話になるのに名前を知らないのは失礼だし、不便で仕方がない。
「ああ、名前か…そういえば言ってなかったな」
「ごめんなさい、尋ねなくて。無礼すぎるよね」
「いや、別に」
ぶっきらぼうにいい放つ彼は、少し勘に触る。
というより適当すぎるのだ、他人に対する反応が。
「───アルト」
「え?」
「俺の名前だよ」
「アルト…」
随分珍しい名前だ。
月という自分の名前も珍しいと思っていたが、彼の名前を知った今、私の名前は対したことないように思えてしまう。