地下世界の謀略
世界を謳う
ひやり。
不意に寒さが身体を刺激し、月はゆっくりと瞼を開いた。
──ぼんやりした頭で昨日の記憶を探る。
昨日は確か、苛ついたようにシャワーを浴びに行ったアルトを待っていたのだが、睡魔が襲ってきて、シャワーの音を聞いていたのを最後に眠ってしまったのだ。
ここで不可解なのは、私はあの時床で意識を飛ばしていたはずであること。なのに、今いるのはソファーの上で、私の上にかかるコートも私のものではない。
「……運んでくれた?」
(まさか)
でもそれ以外に考えられなかった。
冷たい床に足をつけて、姿の見えない彼を呼びかけても返事はない。
窓はないので木漏れ日を見ることも、光がこの部屋に飛び込んでくる事もなかった。ただこの部屋を照らす1つのランプだけが、昨日と変わらず光を放つ。
「…アルト、どこ?」
より大きな声を出して見えない彼を探した。
この頼りない明るさのせいで、不安に駆られてしまう。
「アルト!」
その時ガチャリと、外へと通じる扉が静かに開いた。
そこから現れた黒髪に、張り詰めていた緊張が一気に緩み息を吐いた。
「─────なに。アンタの声でかすぎ」
「だって、呼んでも返事なくて…置いてかれちゃったのかと思って……」
「四六時中アンタの側にいれるわけないだろ。食糧どうすんだよ」
片手にどっさりと食べ物を抱え、腰のベルトに付けられた入れ物からも実の入った小瓶が頭を覗かせていた。
こんな大量の食糧を彼一人に運ばせてしまったのは忍びなく思った。
「…起こしてくれれば私も手伝ったのに」
「アンタの分はないから、大丈夫」
「…………」
「冗談だって」
頼むからこっち持って。
差し出された袋を覗くと、新鮮そうな果物などがてんこ盛りだった。