地下世界の謀略
上半身、黒の薄手一枚となった時、月はもう見ていられなくなって思いきり顔を反らした。
なんで急に脱ぎ出すのか。
目のやり場にも困るし、意味もわからない。
「捕まった奴が誰も帰ってきてないなんて、言ってないだろ」
やけに先程より近い距離で感じる彼の声に私は後ずさる。
そして、その薄手が床に落ちた音を聞いた時羞恥心は一気に膨れ上がった。悶絶するように固く目を閉じていたが、一歩も動く気配のないアルトに誘われるように、顔が正面を向いてしまう。
ただ見ないことには彼の真意は見えてこないのかもしれない、と半ば言い聞かせてゆっくりとめ目元の力を緩めていった。
────血色の良い肌色が見え、鍛え抜かれた筋肉。それら全てが華奢に見えたアルトの身体強く見せるための補いのようだった。
(嗚呼、もう限界)
そう思った束の間不意に見えた"それ"に衝撃が走った。
「…………っ、え」
「俺は凄くなんかねえよ」
「もう、捕まってる」と紡ぐ唇が、強かに鼓膜を揺らす。
──痛々しく肢体を走る縫合線と、切り傷。
そして真っ先に目前に飛び込んできた心臓の位置に施される「烙印」。
だらりと両手を落とした私を見て、彼はまた、微笑んだ。