地下世界の謀略
私が捕まった人間がどうなったかを聞いた時、彼は、"人体実験"が主だと答えた。
それを彼が、何故知っているのかを微動だにも思わなかったのは彼が余りにも飄々と言ってのけたからだ。
─────この傷が何を意味するか分からないほど、私は無知ではない。
「俺は逃げ切った。あいつらの手元から」
無意識に伸ばした指先は彼の傷を弄る。
ぼこぼことして、たまに凹むような窪み。
火で焙った痕は、厭わしく身体を綴っていた。
(血肉が煮えたぎるような拷問を、彼は堪えたというのか)
「…これ、」
手が掠めた位置は、忙しなく動く心臓。
その上に刻み付けられた烙印は、私の心をぐちゃぐちゃにかき混ぜるようで。
「触んな。穢れるから」
その口ぶりと裏腹に、私の手を掴む手は優しい。
私はどうしようもない胸の軋みに胸を押さえた。
呼吸をするのが苦しい。
苦しみを抱くのは自分ではないと分かりながら、この堕落した心はみっともなく涙を私に溢れさせたのだ。
「なんで泣くんだよ」
「…別に、なんでも」
「同情したか?」
「違うよ」
(彼が受けた傷が、私を戒めた)
平和に生きていた真下でこの愚行を知らなかった事を恥じた。そしてその恥でさえ、政府は揉み消してしまう。
「…っ……、」
アルトの指が私の目元に浮かぶ涙を掬った。
彼は思ったより優しい人間なのかもしれない。
私は地上から来た人間だというのに、嫌いだと言いながらもこうして傍に置いてくれたのだから。
「泣くな」
罪人として烙印を押されるべきは彼ではない、地上の人間の方がよっぽど罪深い。