地下世界の謀略
「これと恋人になるくらいだったら俺は凛子と恋人になるな」
ロリコン紛いの言葉だろう、これは。
(それにしてもちょっと女として傷ついた)
「久しぶりですねえ、君が此処に来るのも」
ランプの光が夕暮れ程の明るさで部屋の中がぼんやりしている。
椅子に深く腰掛け落ち着いた声色でアルトを懐かしむのは、40代後半程の男だった。口調のせいか、それよりも老けているように思えてしまう。
「半年くらいだよ、理貴(りき)さん」
────先程微妙な雰囲気を懐柔してくれたのは、建物の中から姿を現した理貴さんだった。
彼はアルトと私を見つけると目を丸くして、それから中に入るように招いてくれた。
今思えば、その時点でアルトに対する目は優しかった気がする。
部屋の外から聞こえる子供たちの笑い声が、この密室の静かさを改めて実感させた。アルトの声も心なしか大きく聞こえる。
「そうだったかなあ。まあ、でも君も随分変わったようだね」
「そうでもない」
「いいや、変わったよ。女を連れて歩くなんて丸くなったもんだ」
「………」
理貴さんは、これまた年季のはいった煙管を揺すって、可笑しそうに笑った。二人を見ていると親子を見ているようで、私も地上の両親を思い浮かべ頬を緩ませてしまう。
もう会えはしない存在。
(元気にしていてくれたらそれでいいんだけど)