地下世界の謀略
「おい」
「なに?」
「そこ座ってろ」
アルトが指差した先には木製の椅子。
その意味は分かっているがあまりにも意外すぎて暫く唖然としていた。
──足のこと、やっぱり気づいてたんだ。
「ふふ、君が他人を気遣うなんて面白いなあ」
理貴さんも何となく気付いているようだ。
なんだかくすぐったいような気持ちになりながら椅子に腰を沈めた。
当人は不機嫌丸出しで私を睨み付けてくる。
「別に、こんなのに気遣ったわけじゃないし」
その態度に顔をひくつかせた月に、理貴は「まあまあ」とあやした。どうやら理貴さんはアルトへの対応に慣れているらしい。
「君にも"余裕"が出てきたってことかな?」
「まさか。…今日もその話をするためにわざわざここまできたんだ」
「そう…」
理貴さんは立ち上がり台所へ向かった。
アルトは私を一瞥して私の隣の椅子に座る。頬杖をつく様は絵画を見ていると言っているのと等しい。様になりすぎて怖いくらい。
何はともあれ、長い話になりそうだ。