地下世界の謀略
月はすがる思いで先の闇を待ちわびていた。
もしかしたら、この悪臭地帯から離れた安息の地を教えてもらえるかもしれない。
音は近付いている。
月の心臓も恐ろしいほど速くなっていく。
「…あ、あの!」
そしてそう遠くはない距離に相手を感じた所で、ようやく声を張ってみた。
震えて上手く言葉が出ないが、それほどまでに歓喜で心を埋め尽くされていたのだ。とりあえず、助け乞うしかない。
しかし。
(……え、?)
顔と体が明るみにでて見えたのは、恐ろしく、顔が整った青年だった。
こんな環境の中でも驚くほどに艶のある髪が、激しくゆらゆらと揺れている。思わず、息を飲んでしまった。
そして彼はそのまま私の横を通過した。
通過………した?
(だめじゃん!)
「────ちょ、待って!」
寸でのところで指先が彼の服の末端を掴んだ。
その衝撃で青年はくぐもった声を出して唸り、スピードを落とした。
勢いよく振り替えられてかち合った真っ黒な瞳に、私は囚われたような気分になった。
「……っにすんだよ!放せ!」
だがどうやら彼は見た目とは真逆の性格をしているらしい。