地下世界の謀略
「は?眠れない?」
彼が唖然としてしまうのは仕方ないことなのだろう。しかし、この前の襲撃の夢が月を解放してくれず、最近まともに寝ていなかった。
こう言う時は一人で寝るより二人で寝た方がいい。経験上。
「嫌に決まってるだろ」
「なんでよ、寝るくらいいいでしょ!」
「なにが嬉しくて他人と寝なきゃなんねえんだよ」
ソファーの上でこちらに背中を向けているアルトに逆上した月は、無理矢理そこから床に引きずり落とした。
ごん、と無残な音が響く。
「っ、痛……おい」
「アルトが悪い」
否、アルトは何も悪くなどない。
不幸中の幸いか、アルトが落ちたのは布団の上で痛みは半減されていたがアルトの機嫌は悪くなる一方だ。
「……明日は街に連れてってやんねえからな」
「それはそれでしょ!」
「ふざけんな」
ここ数日アルトには街に連れてってもらっていた。太陽が差し込まないため、時計のみで行動する習慣の違いや、歴史の違い、それらを少しずつだが教えてもらいつつあった。
そして世話焼きなところを指摘したり褒めたりすると直ぐに機嫌を悪くした。ツンデレにも程がある。
「明日は琉くん達の生まれた貧民街へ連れて行ってくれるんでしょ?」
アルトは背中越しにもああ、と小さく肯定した。
「…行くの止めてもいいんだぞ」
「なんで?」
「彼処は治安が悪い。廃棄場よりマシだが殺し合いだってある」
「へえ」
せっかく忠告をしてやったはずが、まるで危機感のないような軽薄な反応の彼女に、アルトは苛立たしげに身体を起こした。