地下世界の謀略
いつも何かあった時身を潜めている空き家の前に、神奈の住処。
そのまま少し埃かぶった看板を背凭れにしてアルトは地面に座り込んだ。
乾燥している土地であるため服も汚れないため、たまにこうやって腰をおろしている。
こんな事を思うのも可笑しいかもしれないが、ここに座っていると落ち着くのだ。街全体が見渡せる場所にあり、知り合いである彼女を見守る事もできる。決して恋慕とか変な意味ではなく。
────目を閉じて耳をすませば神奈の家から話し声が聞こえてきた。
相変わらずテンションが高い、本当に倒れないか心配だ。月は知らないかもしれないが、ああ見えて神奈は身体が弱い。
「──、────」
…何やら張り詰めた空気を出しているようなので、自分は入らない方が懸命。
アルトは先ほどの月のようにぼんやりとして、先の暗い闇を見据える。
緑は生えていないが、地下独特の文明によって生まれた珊瑚のような植物があちらこちらに生えている。あれはああやって乾燥したところで成長していく。
こんなところには似合わない程しっかりとしていて、一見赤で歪見えるのに堂々と凛として育っていく様は、アルトの中のいつかの記憶を呼び起こした。
──あの人を連想させる、生き様だと。
(それは優しくて、儚い記憶)