地下世界の謀略
「っはあ、はあ…」
「───よし、もう追ってこねえな」
青年は私の腕を離して、壁に寄り掛かるように座った。なぜそんなに余裕そうなのか、月は喋る余裕すら無く息を切らしている。
何せ、こんなに全力疾走したのは久方ぶりだった。
「……で?アンタ誰だよ」
ガチャガチャと拳銃(まさか本物?)を弄くりながら、月を横目で一瞥した。
警戒しているらしい、当たり前だが。
とりあえず息を整え、彼の目の前に腰を下ろした。不快そうに見つめられていた気がするけど、この際気にしないでおいた。
「えっと、なんか、ありがとう」
「何が?」
「いや、何がって言われると…困るんだけど」
「あんなところで何してた」
弾を入れ換えたらしい彼は、非情にも私を冷たい目で見下していた。
威圧ともとれるそれに私は暫し硬直した。
「あんなとこ、赤ん坊でも行かない」
───分かってんのか?
苛立たしげに吐き捨てられ、私は再び俯く。
初対面で説教される私って何なんだろう、いら初対面で連れてくように頼み込む私も私だが。
「で、もう一度聞くけど名前は?」
「…ゆ、月」
「へぇ」
「………」
(聞いてきたくせに態度が素っ気なさ過ぎないか?)
心の中で悪態をつくが、彼の美しい美貌を前にそんなこと言えなかった。
よく見ると、睫毛も長い。
スラッとした鼻筋も薄い唇も、全て色めく材料となっている。
女ながらに負けた気分だ。