地下世界の謀略
無意識のうちにまた、胸が熱く焦げるような感覚が蘇ってきた。気を抜くとすぐこれだ。
アルトは記憶に沈みそうになっていた頭を抱えて、重苦しく溜息をついた。
(────まだ弱い)
もう自分は解放された身なのに、呑み込まれてしまう。自分がいかに過去に縛られているか思い知らされる。だが同時にそれは享受しなければならない過去なのだ。
死ぬまで、永遠に、覚えていなければいけない記憶。
「……っ、月?」
ぼんやりとしていたせいで、すぐ近くにいた彼女に気づけなかった自分に思わず笑ってしまった。
もし敵だったらどうなっていたことか。
油断は禁物であることを、この世界の誰よりも知っているくせに。
「ごめんなさい」
月はその場に座り込んで俯いたまま、拳を握りしめていた。もちろん、俺にはその行動が何を意味しているか想像もできなくてただ首を傾げることしかできない。
「なに、」
「なんかね、拗ねてたみたい」
「……は?」
("彼女を自分の光にしたの")
月の双眸が緩く細められた。
あそこから先は、彼本人に聞くべき過去だ。私はただ、この世界で生かしてくれる彼のために、彼のそばにいればいい。
「ーーーーアルトは私の光だよ」
「……!」
「だから消えたりなんか、しないでね」
ーーーきっと、彼女は"消えて"しまったんだろうから。