地下世界の謀略
アルトは一瞬息を飲んで、やがて、長く息を吐き出した。まるで自分を落ち着かせるかのように。
「……ああ」
(きっと、神奈から何か聞いたのだろう)
別に隠すほどの過去ではない。
だが、まだ。まだ話せそうに無い。
この後悔が無くなるまでは、待っていてほしい。
「ごめん。俺はまだ…アンタに何も言えない。」
それでも。
自信なく視界に蓋をして。
そっと肩に寄せられた手に、触れた。
俺はみっともなく、まだこの世界に堕ちてきて間もない赤子の状態の彼女に、縋っているのだ。きっと"あいつ"が見たら笑うんだろう。
お腹を抱えて、屈託のない笑顔で、俺を責めるんだろう。
「だけど俺は、アンタを置いていったりしないから。今は、……何も聞かないでくれ」
もう二度と、あんなことは繰り返さないと誓うから。
"彼女のように"、掴んだ手がすり抜けてしまわないように。俺は無言で握り合うその優しい手を掴んでおく。
俺はこうしてまた、捨てられない心の拠り所を見つけてしまったのだろう。