地下世界の謀略
----アルトは何かを考え、自分を見つめる月の視線を逸らした。ゆっくりと立ち上がり、そろそろ移動する事を提案する。何度も言うように、アルトは追われている身、一つの場に留まるのは自殺行為だ。
それに、先ほどまでの慣れない行動や言葉のやり取りを振り返ると、何となく照れ臭い気もした。赤子のように何も知らない小さな手を、握り締めていた己に恥ずかしくなったのだ。
ここ数日間で感じるのは、自分が思考する斜め上の発想を彼女はするという事。無意識にでも、今まで誰も触れてこなかった心の奥底に踏み込もうとしてくる事。
-----そして恐ろしいほど真っ直ぐ射抜いてくる奥深い黒の瞳に、俺は多分弱い。
今もそう。きっとこれから暫くの時間を過ごす彼女におれは一種の恐れを抱いている。
後ろから自分を辿ってくる存在。
進むたびに離れないように必死になる足音。
「早く行くぞ」
この場から立ち去りたいと思ったのは、荊だけが原因でないのを何となく感じているアルトだった。