地下世界の謀略
私の視線が煩わしかったのか、青年は鋭い視線を送ってきた。
「アンタさ、ここらじゃ見ない面だよな」
「…えっと」
「何してた、あそこで」
あんな廃れた人も居ないところで。
………疑われて当然、なのかもしれない。
月は素性を明かしてしまうか戸惑ったが、此処で隠して、後でいざこざになるのも嫌だったので、正直に話すことにした。
「私、…ここに迷いこんで」
「迷いこんだ?」
「まあ」
「ありえないだろ…、ここ何処だと思ってる」
────廃棄場だぞ。
彼の言葉が繊細にも耳の鼓膜を揺らした。
「主に死体専用の」
「……っな!」
咄嗟に口を覆った。
平然と言ってのける彼の神経が分からない。
ではあの目が覚めたときにしたあの悪臭も今ここにある空気も死体の香が漂ってるというのか。
吐き気がする。
「……兎に角、此処に来たのは偶然で」
「偶然、ね」
「だからお願い」
「?」
「私も一緒に連れていって」
廃棄場と知った今、此処に置き去りにされるなど冗談ではない。
この青年は此処に詳しそうだし、これは二度と訪れないチャンスだと思う。ちらりと反応を伺うと、思った通りしかめ面をして、顔をひきつらせていた。
「っ嫌に決まってる!なんでアンタみたいなお荷物抱えなくちゃいけねーんだよ!」
「お荷物って酷い!」
「冗談じゃない、俺は今それどころじゃないんだ!」
ここまで拒否されるとは思ってはいなかったが、私だって引き下がる訳にはいかないのだ。 一応命に関わっているのだから。