地下世界の謀略
私は危険の知らない、安全な地上で生きてきたちっぽけな人間だ。
彼の今までの努力も、何を求めて歩いているのかも何も知らない、無垢な人間なのだ。
「っ、アルト……」
嗚呼、情けない。情けなくてたまらない。
震える背中に掛ける言葉すら見つからないなんて。ただ名前を呼んで、哀れむことしかできない。
「帰ろう」
やけにハッキリと、この遺跡の空間に響いた。私が此処でできることは、彼を此処から仮住まいへ、一緒に帰ることだけなのかもしれない。情けないけど、それでも彼をこの空間から出すことがきっと先決な気がするのだ。
アルトの指にソッと触れて、軽く指先で包む。
「…この世界は広いんでしょう」
「、」
「目に見えるものだけが全てじゃない、私はそう思う」
「……月」
「おばあちゃんの受け売りなんだけど、」
きっと辿り着いたこの遺跡が"全て"じゃない。
祖母は言った。
目にしているもの、今自分が突き付けられたもの、それが全てを決める鍵ではないはずだと。絶望の中に希望は必ずあるのだと、よく笑っていたものだった。
それを今、私は信じたい。
「アルト、まずは戻ろう。戻ってから、また遺跡を調べ直して、情報を集めよう」
きっとまだ何かあるはず。
アルトが探し求める安楽街、そこがこの先何を意味するのかもまだ分からないけれど、何も動かずに無いかもしれないという絶望に打ちひしがれて、立ち止まるよりはずっとマシだ。
(此処にきてから初めて、自分のすべき行動を口にした気がする)
アルトは一つ息を吐いて、力なく頷く。そして彼の手を引っ張り、元の道を辿っていく。
ーーーーーー月は確かな足取りで、その道を歩いていた。