地下世界の謀略
----私はとりあえず、この世界を知る事に時間を費やした。
あの日から私はアルトより早起きし、何度も理貴さん達の住む教会内にあった沢山の文書を読み解き明かすことに努めていた。
もう恒例化しているその行動に、私自身も驚くほどこの世界に関わろうとしている事に気づく。
今日もアルトとは別行動で、この教会を訪れていた月に理貴は声をかけていた。
「今日も此処に籠るのかい?」
「あ、理貴さん。すみません、なんか何度も押しかけてしまって……」
「それは全然構わないよ。寧ろ君がそうやって少しでもこの世界を知ろうとしてくれている事が、とても嬉しいからね」
「きっかけがまあ、あれなんですけどね」
「アルトのためかい?」
月はページを捲っていた手を止めて、チラリと理貴さんの方を見る。
……彼は何を考えているのか分からない顔で、私に珈琲を差し出してくれていた。
一息ついてもいい頃だろう、月はその珈琲を受け取ると、本で埋め尽くされる中空いていた床のスペースにゆっくりと、腰を下ろした。
「ありがとうございます」
「いや、いいんだよ、これくらい。年寄りにできるのはこんな事ばかりさ」
「そんなことないです。……あの、アルトは今どうしてますか?」
ここ数日間か、彼の姿を見ていない。
急に私の生活のリズムが変わったのだから当然だが、きっと彼は私が何をしているのか知らない可能性もあるだろう。