地下世界の謀略
「……月」
「だから、まずは荊についてもっと知るべきかなって思って」
「、月」
「思い出したくない事もあるかもしれないけどっ!でもきっとアルマディナが滅んだのもあいつらが関係して」
「月」
漸く、彼女は口を閉じた。
次々に案を飛ばしていた月の名前を強く呼んで、彼は彼女から握られていた手をきつく握りしめ返した。ぎゅっと触れた体温がお互いの熱を共有する、熱い鼓動を、感じた気がする。
(なんて、あたたかい)
「ーーーありがとう、月。」
顔をくしゃりと歪めて、情けないくらい震えた声で彼女へと言葉を紡ぐ。
滅多にないアルトの縋るような声と言葉と態度に、月は目を見開いた。
「…俺なんかより、アンタの方が全然強い」
「そんなこと、」
「あるさ。…アンタが、そうやって必死になってくれるから、現実から逃げたくなっても、逃げずにいられた」
ーーーーー諦めるなと手を引いてくれたアンタに、俺は救われたのだ。
「光にすべきは俺じゃない、アンタだよ」
眩しい。
"あいつ"にどこまでもよく似て、でも決して同じではない光。
この手のぬくもりを覚えておこう。
道が途絶えそうになった時もう一度、立って歩けるように。刻み付けておこう、己の体温に。
「ーーーーーっ役に、立てたかなあ」
「月…」
「私、自分のことばっかで、ずっと助けられてばっかでっ」
何も持ってなくて、彼に何も返せない自分が悔しくて。
「アルトを喜ばせてあげられるのなんて…こんな、ちっちゃなことしか、なくて!」
彼女の震えた睫毛の隙間から、ぼろぼろと溢れる雫。彼女もきっと気を張って、必死で、慣れない環境に馴染もうとしていた。
情けない、俺は何をやっていたのだ。
彼女の方が不安で苦しくて、堪らなかったというのに。
「そんなことねえよ、」
「……っなんで、そんな顔して笑うかなぁ」
「ははっ、そんな顔って、失礼すぎだろ」
頑張って良かった、少しは恩返しできたって、安心してしまうでしょう。
頭を優しく撫でる彼の手に、涙が止まらないではないか。
「……もう一度、約束させてくれ」
「、?」
「ーーーこの先何があっても諦めないと誓う」
アンタが俺にそうしてくれたように。
つまづいたら、隣で手を出し差し伸べる存在でいられるように、俺はアンタと共に、希望を見ていたい。
「地下世界に堕ちてきたのが、月で良かった」
心からそう思う。