前夜に乾杯【短編】

もういいのかもしれない。



「コーヒー」

「ん?」

「くれるんでしょ?」

あ、やっと笑った。

八重歯がにょって出てくる。

しかし、鞄から取り出せば顔を一気に曇らせた。察した私はそんなことも気にせずに、プルタブを引く。

ぐいって一気飲み。渋い、ブラックでも一番好きなメーカー。口のなかに広まる………ぬるい温度。ふ、と息をつく。



「今からイルミネーション見て、デパ地下でおいしーものたくさん買って家に帰ろ」

「でも、いいの?」

「うん」


手をどちらかともなくつないで、キラキラ光る夜の街に溶け込んだ。

《家でまったりしたいな》そう言っていた彼の気持ちがよくわかった。

好きなヒトと、二人で過ごしたい、よね?



《end》

< 4 / 5 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop