前夜に乾杯【短編】
もういいのかもしれない。
「コーヒー」
「ん?」
「くれるんでしょ?」
あ、やっと笑った。
八重歯がにょって出てくる。
しかし、鞄から取り出せば顔を一気に曇らせた。察した私はそんなことも気にせずに、プルタブを引く。
ぐいって一気飲み。渋い、ブラックでも一番好きなメーカー。口のなかに広まる………ぬるい温度。ふ、と息をつく。
「今からイルミネーション見て、デパ地下でおいしーものたくさん買って家に帰ろ」
「でも、いいの?」
「うん」
手をどちらかともなくつないで、キラキラ光る夜の街に溶け込んだ。
《家でまったりしたいな》そう言っていた彼の気持ちがよくわかった。
好きなヒトと、二人で過ごしたい、よね?
《end》