ポチタマ事件簿① ― 都会のツバメ ―
「チッ」
男は軽く舌打ちをして、鍵を拾いに行った。
ほんの数歩。
たったそれだけでも、普段とは違う位置から見ると、見慣れた場所にも意外な発見があるものだ。
「あれ? あんなところに通路があったんだ?」
駐輪場の奥に、扉一枚分の大きさの開口部があった。
普段ならコンクリートの柱で死角になっている位置である。
マンション側面の点検用か、通風や採光用の開口部だろう。
あるいはデザイン性――見えにくい場所なのに――を求めてのことかもしれない。
それは一見すると通路にも見えた。
その開口部の先には、隣のマンションの薄汚れた外壁と、暖色のライトに照らされた観葉植物が見える。
男は眉間にしわをよせた。
「……あんなとこに電気つけて、無駄な管理費使いやがって」
先日の管理組合の総会でも、無駄な管理費が多いと指摘があった。
外から見えるでもない、隣のマンションとの数メートルのスペースに、ライトやら観葉植物やらを置くのも無駄ではないか。
男はそう思った。