ポチタマ事件簿① ― 都会のツバメ ―
第一章「ポチとタマ」
第一章「ポチとタマ」
「ポチ!!」
会社の受付嬢の大声に、周りにいた人たちは「どこに犬がいるんだろう?」とあたりを見渡した。
受付嬢はお構いなしに、『ポチ』を呼び続ける。
「ちょっと、ポチってば! おーい!」
呼びかけは、始業時間を過ぎてから出社してきた若い男性社員へ向けて言っている。
男性社員はもちろん人間だ。
「うるさいな、タマ!」
男性社員は不機嫌さを隠そうとせず、受付嬢をにらみつけた。
『タマ』と呼ばれた受付嬢はネコである――ということもなく、もちろん人間だ。
「会社でポチ呼ばわりするなって何度も――」
「そんなだらしないカッコで出社して。朝くらいシャッキっとしなさい!」
タマはポチの話などお構いなしにお説教した。
タマの隣にいる新人受付嬢は、会社らしくないやりとりに目を丸くしている。
「あぁ、気にしないでね。あの人は『ポチ』ってゆうの。雰囲気がポチっぽいでしょ」
タマはそう言って、にっこりと後輩へ微笑みかけた。