ポチタマ事件簿① ― 都会のツバメ ―
新人受付嬢は、ポチをちらっと見て、ぷっと吹き出した。
確かに「ポチっぽい」と思ったのだろう。
ポチは無駄を承知で説明する。
「ポチじゃなくて『トシオ』だよ。大島俊夫」
「『トシ』がなまって『ポチ』になったのよ」
タマが余計な補足情報を面白そうに付け加えた。
ポチはタマをひと睨みすると、新人受付嬢へ説明を続ける。
「あと、キミの隣にいる『前田たまき』とはただの幼なじみ。公私の区別ができないところは見習っちゃダメだよ?」
「は~い、分かりましたぁ」
新人受付嬢はくすくすと笑いながら返事をした。
その目は完全に『ポチ』を見る目である。
ポチのアドバイスは、新人受付嬢の記憶の片隅に残るかどうかはあやしそうだ。
タマはその光景を、ネコのように瞳を爛々と輝かせて眺めている。
「ン~? 幼なじみっていうよりもクサレ縁よね。あたしは早く切りたいんだけどな。でも、ポチが捨て犬になるみたいでカワイソーだしぃ?」
タマは腕を組んで、わざとらしく考え込む素振りをした。
ポチは顔をしかめて、受付を早足で通り過ぎる。