二度目の恋
「ママ」
「うん?なあに」
 愁は躊躇(ためら)った。恵子を呼んでおきながら、何も考えていない。何を話そうか考えた。空き家のことを思い立った。隣の家のことだ。
「隣り、まだ引っ越してこないのかなぁ」
「さあ、どうかしら」
 亨が話しに入ってきた。
「ああ、そういえば昨日誰か来てたぞ」
「昨日?」
 愁が言った。
「あら」
 恵子はスープを一口飲んだ。
「昨日の夜、明かりがついてた」
 亨が言った。
「昨日の夜?」
 愁が驚いた表情で、フォークとナイフをテーブルに置き言った。
「じゃあ誰か、引っ越して来るのかしら」
 恵子が言った。
「どうかな。何しろ古い家だからな、なかなか買い手がないんだろうな」
「そうね……」
「ブラックだ……」
 愁は一点を見つめ、驚いた形相で言った。
「ブラック?」
 亨が言った。愁は隣の空き家のことを、話題にしたことに失敗したと思った。この家には噂があった。
「うん、夜、村の明かりが全部消えると、闇に包まれるでしょ。月の明かりも物の影もない、そんな闇に包まれた日、昔、どこからかライト片手に酔った彰と言う名の青年が、空き家の前を通った時の話。彰は空き家から何やら光る物が見えたんだ。二つの光が、家の中から……彰は自分の目を疑った。自分は酔いすぎたのかと……彰はその家が空き家だと知っていた。誰もいないことは知っていたんだ。だから家に近づいて確かめた。そして、見たんだ……ブラックを」
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