二度目の恋
「もういいよ。もういい」
 愁は美月を思いっきり抱きしめ涙を流し、何かを思いだしたようにポケットを探った。
「そうだ、あめ玉なめなよ。さっき、国利さんに貰ったの」
 ポケットから銀のまあるくて平べったい缶を出して、蓋を開けた。するとまあるいあめ玉は一つしかなかった。
「一つしかないや。このあめ玉、あま~くて美味しいの。幸せな気分になれるんだ」
 美月は小さな手で愁の持っている缶から、あめ玉を取って口の中に入れた。
「美味しい……」
 その時、どこからか一人の妖精が近づいてきた。
「妖精」
 愁が言うと美月は頷いた。妖精は二人を見上げていた。すると愁はあめ玉の缶をおいて、その妖精を掬い美月に近づけた。
「僕らを助けに来たんだ」
 愁はジッと妖精を見た。
「僕が美月を守る。美月のことを僕が守ってあげる」
 美月は愁を見た。妖精は愁の掌から飛び降り、地面に置いてあるあめの入っていた缶の中に体をうずくめた。すると愁はその缶を持ち、そっとその缶の蓋を閉めた。
「これは、美月が持っていて」
「……でも」
美月は躊躇(ためら)った。
「妖精がそう願ったんだ」
 愁がそう言うと、美月は静かに頷いた。
 二人は湖を後にした。辺りは夕暮れとなり、二人は影となって森林に映されていた。
「ねえ、一つだけ聞いていい?」
愁は歩きながら言った。美月は愁に顔を向け頷いた。
「国利さんが持っていたあの写真……何?」
 美月は息を飲み呑み
「ママが、好きだった人」
 答えた。愁は心臓が突き破れるような衝撃が走って、思わず立ち止まってしまった。
「どうしたの?」
美月は言った。
「ううん」
 愁は平然を装って慌てて、美月の後ろを追うように歩いていった。


 二人は田圃と原っぱの狭間を歩いていた。秋の虫の美しい音色が聞こえる。「じゃあ」愁が言うと「うん」美月は頷いた。美月の家の前についた。もう、辺りはすっかり暗くなっていた。今日は満月だ。テカテカと辺りの黄色く染まった稲や、原っぱのススキにあたり、いつもより明るく感じた。
 家の窓から直也が二人の姿を見ていた。
 美月は家の中に入っていった。その姿を見送ると、愁も自分の家へと歩いていった。


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