二度目の恋
「美月から離れろ」
「何故離れる必要が?」
「震えてる」
「震えてる?興奮してるんだ。楽しくてな」
 直也はケラケラと笑い始めた。愁は拳に力を入れた。その姿と直也の笑いを、美月は見ていた。「愁……逃げて!」美月は叫んだ。息をのみ、苦し紛れだった。だが愁はその言葉を聞かず、直也に近づいて殴りかかった。が、愁の掲げた手は、直也に受け止められた。愁が抵抗してその直也に止められた手を離そうとしても、直也はギュッと掴んで離さなかった。「ガキに何が出来る」直也が言った。さらに愁は抵抗すると、直也は突然掴んでいた愁の手を離し、愁はその反動で蹌踉けた。直也は愁を見て笑い、殴りかかった。顔に一発、腹に二発、また顔に一発殴り、愁は蹌踉けて後退り、そしてお尻を床につけ、朦朧(もうろう)と直也を見た。
 風がまた出てきた。雲は動き、月明かりが途切れ途切れ現れる。直也の顔にも途切れ途切れあたった。風で草が靡く音がする。虫の鳴き声は騒めいても静かにも聞こえた。美月は愁の姿を見ると、抱えている服をギュッと掴んで涙した。「逃げて……逃げて……」その言葉も声にならなかった。愁は目を見開き、朦朧と、直也の気迫を感じた。柔らかい物を感じた。お尻の下の柔らかい物。直也を見ながらその物の手触りを感じた。そして、自分の目でその物を見た。震えが、愁に緊迫した震えが起こった。その物の先にはリュウの顔が、森で死んだ、あの時のリュウの顔があった。愁はすぐにマットから体を退けて、顔で頬摺り、抱き抱えた。「どうして……どうして……」涙した。
 直也が仄かに笑い始めた。
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