二度目の恋
バタンとリュウが草の狭間に倒れた。男の手がリュウの足を持ち、引きずっていった。静かな森を、リュウが引きずられていた。死体となったリュウの足を持って引きずりながら歩いている直也の姿があった。直也は大きな樹木に近づくとリュウを放り投げ、後ろのポケットからナイフを取り出してリュウの体の皮を切り出し始めた。丁寧に丁寧に、皮が破れないように頭の先まで切り放つと、血だるまとなったリュウの死体をそのまま残して、皮だけ肩に背負って森を歩いていった。


 「ママ……ママ……」美月は口の中で呪文を唱えるように何度も繰り返した。愁は直也を見て震えが起こった。愁はマットを抱え、そして直也と目線を反らさないように、後ろに静かに歩いていき、美月の側に来た。愁は何も言えなく、もう抵抗する気力も失せていた。直也はゆっくりゆっくりと愁に近づき、殴った。殴って殴って殴り倒した。愁はそのまま床に転げ落ちた。<殺される……>朦朧としたまま、何も考えられないまま、その言葉だけが頭の中で過ぎった。そんな愁にまだ直也は近づいてきた。そしてまた愁を殴りつけようとしたとき、ドスンと大きな音がした。その瞬間直也が床に倒れ落ちた。その背後に、直也が倒れた背後に人影があった。ちょうどまた雲から月が出て光が漏れ、その人物も分かった。長い棒を持って、息を切らしていた恵子の姿があった。「ママ……」愁は朦朧としたままそう叫んだ。「私の息子に手を出さないで」恵子が言った。「橘恵子か」直也は頭を抱えながら起きあがった。「私の夫を殺したのね」恵子の言葉が重圧に聞こえた。愁はその言葉にまだ疑問を抱き、美月はその言葉で記憶の影を彷徨っていた。
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