二度目の恋
ザクッザクッと直也が丘の上で土を耕している音がした。その背後でラジオの音が流れる。
「はい、ピンクレディーでUFOでした。ちょっと昔の曲だけど、やっぱり名曲です。いい歌でした。さあ、まだまだいきますよ。タメちゃんのミュージックアフター。さて、次の曲は?……と、ごめん。ここでCM入るんだった。はい!CM」
 美月は見上げて直也を見ていた。そこに一人の初老の男が通りかかった。
「お~美月ちゃんこんにちは」
「こんにちは」
美月が言った。そして男は丘を見上げた。
「直也!」
男は叫んだ。
「あ~、こんにちは」
直也は作業を止めて言った。
「何やってるんだ?」
男は言った。
「畑作るんだ」
「畑?だっておまえ、この土地は鉄道通すんだろ。おまえが国に売った土地じゃねぇか」
「だからそれまで、まだ時間はあるから……夢だったんだ。畑作って、自分の好きな物を育てるの」
「だけどおまえ、この土地は畑には向いてねぇぞ。土が悪い」
「ああ、そんなだいそれた物じゃないんだ。小さくて、家庭栽培みたいな」
「そうか」
 男がそう言うと、直也はまた畑を耕し始めた。
「彼奴にあんな趣味があったなんて初めて聞いたぞ」
男が美月に小声で言った。
「私も」
美月は笑顔で答えた。
「今日の夜は大雨だ。せっかく耕した畑も滅茶苦茶になっちゃうな」
そういうと男は去っていった。美月は男を見送ると、また丘の上の直也を見上げた。
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