二度目の恋
恵子と直也は対峙している。
「この村に何しに来たの?」恵子が叫んだ。「私たちも、殺しに来たのね」直也はにやほや笑った。「何言ってるんだ。俺は、おまえたちの無様な姿を見に来ただけだ」直也が言った。「パパを……殺した?」愁は恵子と対峙している直也の顔を見上げ、その二人の姿を見ている美月を見て、後退りした。その愁の姿に美月は気づいた。「違う……違うの。私は、知らない。何も知らないの」美月は愁の目を見た。愁は震え、肩を窄めて顔を横に振った。「私を、信じて……」美月は悲しく、涙を流した。愁は美月の目を見て、ずっと顔を横に振っていた。美月の目に写った愁の姿に、またあの悲しい記憶が過ぎった。


 もの凄い音が美月の家を襲った。外は大雨で、その雨粒が家の屋根にあたる音だ。直也はテーブルの椅子に座って新聞を読んでいた。直也は背後に人の気配を感じた。「何処へ行く」直也は振り向き言った。シャリーが玄関に向かおうとして、直也の言葉に振り向いた。シャリーは一度立ち止まり、直也を見てまた玄関に向かった。「あいつか……」シャリーは一瞬止まった。「あいつの所に行くのか」直也は微笑んだ。「ちょうどいい。奴は、家にはいない」シャリーは直也を見た。「彼奴は、丘にいる。今日、会う約束をしている。現場の下見でな」直也はシャリーを鋭い眼差しで睨みつけた。「何故こんな大雨の日に、現場の下見なのでしょう」直也は言った。シャリーは驚きの顔を隠せなかった。勢いよく、玄関の扉を開けて出ていった。ドアは、勢い余って、開いたり閉まったりして、雨が家の中のに入ってきた。シャリーの後ろ姿を見て、直也はふと笑いかけた。
 その時、美月が勢いよく階段を降りてきて玄関に向かった。直也は椅子を立ち、美月を止めようとしたが、美月は直也を振り払って、開閉されている玄関の扉に突進して、激しく振りゆく雨の渦に入り込んで立ち止まり「ママ!」大声で叫んだ。シャリーはその声が微かに聞こえた気がした。立ち止まり、振り向き美月の顔を見て少し微笑み、また、悲しい顔で走り去っていった。
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