二度目の恋
美月はシャリーの後を追って走り出した。その光景を、玄関の扉の奥から直也は見ていた。
 倉岡シャリーは雨の中走っていた。悲しい顔で……
 激しい雨を受けながら、田園を走り抜け、家々の間を通り抜いた。美月もシャリーを追った。
 シャリーの目に丘が見えてきた。微かに写る人影もある。丘の下で傘を差しながら待っている男がいた。俯き、顔は見えなかった。
 シャリーはゆっくりと歩き始めた。男はシャリーの足音に気づいて顔を上げた。その、男は橘亨の姿だった。亨は、驚きの顔を隠せなかった。思わず傘を手放した。シャリーは亨の顔を確認すると、にこやかに近づいていった。
 美月も後れを取って追いついた。遠くを見ると、丘がある。シャリーの姿もあった。シャリーは丘に近づいていた。その奥に亨の影はあったが、美月はその姿に気づきはしなかった。立ち止まり、安心の笑みが零れた。
 シャリーは手を広げ、亨に近づいた。亨に笑顔はなかった。シャリーは最高の笑みを浮かべ、亨に抱きついた。そのとき、もの凄い大きな音が辺り一面に響き渡った。二人は辺りを見渡した。
 美月が一歩丘に近づこうとしたとき、その音は聞こえた。その音で美月は歩くのを止め、辺りを見渡した。静かではあった。激しく振る雨の音以外は聞こえはしなかった。だが、その大きな音は、突然美月の耳に襲った。また、美月が丘に近づこうとしたその時、美月の目の前で、シャリーを覆うように土砂は崩れ落ちた。
 シャリーは亨と抱き合い、亨に笑顔は無かった。その大きな音に二人は辺りを見渡した。その瞬間、背後からなだれ込むように土砂は崩れ落ち、二人を飲み込んだ。
 信じられない光景だった。足がガクガクした。「ママ、ママ」美月は足をふらつかせながら丘に近づき、土を掻いてシャリーを掘り起こそうとした。「ママ、ママ。誰か、誰か、助けて……」掻いても掻いてもシャリーの姿はなかった。「誰か~、誰か~」叫んだ。そのことは誰も気づきはしない。静かではあった。激しい雨が降り注いだ。だが、民家は近くにはなく、土砂が崩れたことを誰も気づかない。「ママ、ママ」美月は泣きながら土を掘り起こし、そして朦朧と立ち竦んで「誰か、誰か」フラフラになりながら助けを求めて歩いていった。
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