二度目の恋
 その瞬間、村人は一瞬の驚きと、一瞬の緊迫感と、一瞬の静けさが襲ったが、一人が我に返り手を叩き始めた。それが徐々にみんなが手を叩き始めて一人が大声で言った。「みんなー、乗り込めー!」そのかけ声とともに、村人は吠え叫んで駅に走り向かった。誰もがそれを鉄道開通のパフォーマンスと思った。一人の村の青年は唯の前に来て言った。「唯村長、大変素晴らしい演出でした」唯は苦笑しつつも「あ、ああ」誇らしげに青年に返事をし、青年は笑顔で唯の手を取って握手を求めると駅に走っていった。
 愁と健太郎は目を丸くして倒れたままだった。村人は二人の姿を尻目にかけず、汽車に乗り込んだ。「シュウ」女の声がした。愁は倒れたまま目だけがその言葉が聞こえた方を見た。そこには恵子が立っていた。「かあさん……」愁は言った。恵子は手を差し伸べた。愁はその手を取って、上半身を起こした。「早く乗りなさい。もう汽車は出発するわよ」優しい口調でいうと、恵子は汽車に乗り込んだ。その後ろにいた静江とガン太も乗り込み、竹中も乗り込んで、最後に芳井が乗り込もうとしたとき、愁の姿を見て口を開いた。「シュウちゃんすごいよ。さっきのパフォーマンス。今度教えてね」そう言うと汽車に乗った。「シュウ~、シュウ~」駅の改札からホームへ唯が走って来て、愁の前で足を止めた。「すごいよ!本当にすごい。いつあんな演出を思いついたの?ずるいよ、どうして僕に教えてくれなかったんだ。段取りに困っちゃったじゃない。でもみんな喜んでた」唯は笑顔で言った。「いつあんな危険なパフォーマンスを覚えたの?あ、分かった。隣村に今サーカスが来てる。そのサーカスでも見た?」すると唯は愁の後ろで倒れている健太郎の姿に気づいた。「サーカス団の人?」指を指して言うと、後ろから途方もないほどの汽笛がうねりを上げた。「あ、出発するぞ」唯は一人で話、一人で納得したら慌てて汽車に乗り込んだ。「おい!健太郎」愁が呼んだ。「ん?」健太郎は上半身を起こした。「おまえはピエロか?俺達はトムとジェリーとでも組むか?」そう言うと、立ち上がって汽車に乗った。「ん?ん?」健太郎は何も理解できないまま、立ち上がって汽車に乗った。汽笛はうねりを上げた。すると汽車は蒸気の音と共に徐々に徐々に進んでいった。
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